この記事では、「 マネジメント 3.0 」の概要と、自組織に取り入れるためのチェックリストを解説しています。
2022年7月に発売され、マネジメントに携わる多くのビジネスパーソンに注目されている書籍「マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点」ですが、ソフト開発のプロセスから派生した概念のため、ついつい苦手意識を持ってしまう方が大勢いらっしゃるかと思います。
(画像引用:丸善出版株式会社)
この記事の後半にあるチェックリストをご利用いただければ、「 マネジメント 3.0 」の概要が学ばずとも、簡単に自組織に取り入れることが可能です。
- マネジメント 3.0はシステム開発の原則を応用している
- 世の変化に対応できる柔軟さに重きを置いている
- 従業員のモチベーション管理にも役立つ
- 組織全体の「目標達成」をロジカルに分析する風土づくりに役立つ
本記事の構成(=もくじ)
マネジメント 3.0 という概念は誰が考えたのか
マネジメント3.0の概念は、オランダの著名な組織心理学者でありコンサルタントであるヨースト・アペロによって提唱されました。ヨースト・アペロは、アジャイルソフトウェア開発の原則を組織のマネジメントに適用する方法を研究し、その成果を書籍やワークショップを通じて広めました。
具体的には、ヨースト・アペロは著書「「マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点」を執筆し、アジャイルなリーダーシップとマネジメントの原則を説明しました。この本は、アジャイルソフトウェア開発のコミュニティや組織のマネジメントに興味を持つ多くの人々に影響を与え、マネジメント3.0のコンセプトが広がるきっかけとなりました。
その後、ヨースト・アペロはマネジメント3.0のアイデアをワークショップやトレーニングプログラムを通じて実践に導入し、組織のリーダーシップとマネジメントに新しい視点を提供しました。マネジメント3.0は、彼の研究と実践から発展し、多くの組織で採用されています。
マネジメント 3.0 が生まれた理由
- アジャイルソフトウェア開発の影響
- 変化のスピードと複雑性の増加
- 従業員のエンゲージメントとモチベーション
- イノベーションと競争力の追求
アジャイルソフトウェア開発の影響
マネジメント3.0の原則の多くは、アジャイルソフトウェア開発の原則から派生しています。
アジャイルは、プロジェクトの柔軟性、コラボレーション、顧客志向のアプローチを強調し、従来のウォーターフォール型の開発方法に対抗しました。これに触発されて、アジャイルの原則がマネジメントにも適用される必要性が生まれました。
変化のスピードと複雑性の増加
技術の進歩や市場の変化が急速に進行している現代のビジネス環境では、従来のマネジメントアプローチが対応しきれないことが多くあります。
マネジメント3.0は、組織が変化に適応し、柔軟性を持つための方法を提供することを目的としています。
従業員のエンゲージメントとモチベーション
マネジメント3.0は、従業員のエンゲージメントとモチベーションを向上させることに焦点を当てています。
従来の指令型のマネジメントスタイルでは、従業員の自己決定権や責任感が制限されることがあり、これがモチベーションの低下や離職率の増加につながることがあるため、新しいアプローチが求められました。
イノベーションと競争力の追求
現代のビジネスはイノベーションと競争力の維持が不可欠です。
マネジメント3.0は、チームや個々のメンバーがイノベーションを推進し、新しいアイデアを生み出すための環境を促進することを目指しています。
これらの要因から、マネジメント3.0は従来のマネジメントアプローチに対する新しい視点を提供し、組織が変化に適応し、競争力を維持するための手法として開発されました。
これまでのマネジメント論と マネジメント 3.0 は何が違うのか
- 自己組織化と分散されたリーダーシップ
- 柔軟な目標設定と評価
- ツールとゲーム
自己組織化と分散されたリーダーシップ
伝統的なマネジメント論では、組織は上から下への階層的な構造を持ち、上位の管理者やリーダーが意思決定を行います。
一方、マネジメント3.0では、個別のチームやプロジェクトが自己組織化され、リーダーシップが分散されます。つまり、メンバーやチームが自分たちの問題を解決し、自分たちの目標を設定します。
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2024.07.01 |
柔軟な目標設定と評価
伝統的なマネジメントでは、年次目標設定やパフォーマンス評価が一般的ですが、マネジメント3.0では柔軟で頻繁な目標設定と評価が行われます。
これにより、組織は迅速に変化に適応でき、成果を最適化できます。
ツールとゲーム
マネジメント3.0は、組織のプロセスとコミュニケーションを改善するためのツールやゲームを提供します。
これらのツールは、チームビルディング、コラボレーション、コミュニケーションの向上に役立ちます。伝統的なマネジメント論では、こうしたツールやゲームの活用は一般的ではありません。
簡単に言えば、マネジメント3.0は、組織の階層的な構造や伝統的なマネジメントプロセスに挑戦し、より柔軟でアジャイルな組織を構築しようとするアプローチです。
従来のマネジメント論に比べて、より自己組織化、分散されたリーダーシップ、柔軟な目標設定が強調され、ツールやゲームが活用される点が異なります。組織の変化に適応し、効率的に成果を出すために採用されることがあります。
マネジメント3.0 で取り組むべき8つの要素
- リーダーシップチームの教育とトレーニング
- 組織の目標と文化の再評価
- チームの自己組織化の促進
- 目標設定と評価の変更
- コミュニケーションと情報共有の改善
- ツールとゲームの活用
- 成果のモニタリングと改善
- 持続可能な文化の確立
1.リーダーシップチームの教育とトレーニング
マネジメント3.0の原則やアプローチを理解し、実践できるように、組織のリーダーシップチームにトレーニングを提供します。ヨースト・アペロの著書やオンラインコースを活用することもできます。
2.組織の目標と文化の再評価
マネジメント3.0を取り入れる前に、組織の目標や文化を再評価し、変更が必要な部分を特定します。マネジメント3.0は、目標設定や文化の変革をサポートするためのツールやアプローチを提供しています。
3.チームの自己組織化の促進
チームに自己組織化の原則を導入し、チームメンバーが自身の仕事やプロジェクトに対する責任を持つ文化を醸成します。チームメンバーには、自分たちの目標を設定し、進捗を追跡し、問題を解決する自由度を与えます。
4.目標設定と評価の変更
年次目標設定とパフォーマンス評価のプロセスを見直し、より柔軟で頻繁な目標設定とフィードバックを導入します。目標はSMART目標(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に従って設定し、成果を測定します。
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5.コミュニケーションと情報共有の改善
チーム間および組織内のコミュニケーションを強化し、情報共有を容易にするためのツールやプラットフォームを導入します。情報の透明性を高め、問題やアイデアの共有を奨励します。
6.ツールとゲームの活用
マネジメント3.0のツールやゲームを導入して、チームビルディング、コラボレーション、コミュニケーションの向上をサポートします。これらのツールは、チームメンバーの関与を高める助けになります。
「マネジメント3.0」のツール、ゲームの詳細はこちら
7.成果のモニタリングと改善
マネジメント3.0の原則を実施し始めたら、その効果を定期的にモニタリングし、調整と改善を行います。フィードバックを収集し、適切な調整を行ってマネジメント3.0の実践を最適化します。
8.持続可能な文化の確立
マネジメント3.0の原則を持続可能な文化として組織に根付かせるために、リーダーシップチームは継続的なサポートと指導を提供し、変化を維持します。
マネジメント3.0の導入に役立つ「10のチェックリスト」
- リーダーシップチームの教育とトレーニング
- 自己組織化と分散されたリーダーシップ
- 目標設定とフィードバックの見直し
- 情報透明性とコミュニケーション
- 実験と学習
- チームの多様性と協力
- フィードフォワードとリスク管理
- コンプレックスシステムの理解
- 信頼と文化の醸成
- ツールとゲームの活用
1.リーダーシップチームの教育とトレーニング
マネジメント3.0の基本原則をリーダーシップチームに伝えるためのトレーニングプログラムを設定しましたか?
2.自己組織化と分散されたリーダーシップ
チームや個人に自己組織化と分散されたリーダーシップの原則を導入しましたか?
3.目標設定とフィードバックの見直し
年次目標設定と評価プロセスを変更し、より頻繁な目標設定とフィードバックを実施しましたか?
4.情報透明性とコミュニケーション
情報がオープンで透明であり、従業員間のコミュニケーションが円滑に行われ、情報がスムーズに共有されていますか?
5.実験と学習
チームが新しいアイデアを実験し、失敗を恐れずに学び、改善する文化を醸成しましたか?
6.チームの多様性と協力
チームメンバーの多様性を活用し、協力と共感を奨励しましたか?
7.フィードフォワードとリスク管理
問題が発生しないように予防策を講じるための仕組みや文化が存在していますか?
8.コンプレックスシステムの理解
組織を複雑なシステムとして捉え、相互作用を理解し、適切な対策を講じましたか?
<具体例>
例えば、ある製造会社が新しい製品を市場に投入することを検討しているとします。この場合、コンプレックスシステムの理解とその適切な対策を講じることが重要です。
組織が製品の市場投入を計画する際、システム全体を考慮し、複雑な相互関係を理解して適切な戦略や対策を講じることが求められます。それに対するアプローチがマネジメント3.0の一部として取り入れられることで、より効果的な意思決定と遂行が可能になります。
1.市場調査と競合分析
組織は市場全体を複雑なシステムと捉え、競合他社の行動や市場の傾向を理解します。これに基づいて、新製品の戦略を練ります。
2.製品開発プロセス
製品開発は複雑なプロセスであり、異なる部門やステークホルダーが関与します。組織はプロセス全体をシステムとして捉え、異なるステップや部門間の連携を最適化します。
3.リスク管理
製品の開発や市場投入にはリスクが伴います。組織は潜在的なリスクを特定し、それに対処するための戦略を策定します。たとえば、競合他社の反応や市場の変動に備えるプランを作成します。
4.供給チェーン管理
製品が市場に出回るには、供給チェーン全体も含めたシステムの効率的な管理が必要です。需要予測、在庫管理、物流戦略などが重要な要素となります。
9.信頼と文化の醸成
相互の信頼を築き、共感と誠実さを組織文化に取り入れましたか?
10.ツールとゲームの活用
マネジメント3.0のツールやゲームを導入して、チームビルディングを強化しましょう。
<具体例>
マネジメント3.0のツールやゲームを導入して、チームビルディングやコラボレーションを強化するための具体例には以下のようなものがあります。
これらのツールやゲームは、マネジメント3.0のアプローチに基づいて設計され、チームビルディング、コミュニケーション、協力の向上に寄与します。チームメンバーが楽しみながら学び、組織の文化を向上させる手段として活用されます。
1.Delegation Poker(委任ポーカー)
このゲームでは、チームメンバーが彼らの役割と責任を評価し、各メンバーがどの程度の自主性や権限を持ち、どの領域で意思決定が行われるかを議論し合います。
このプロセスは、チームメンバー間での役割と責任に関する透明性を高め、意思決定のレベルや範囲を明確にし、誤解や衝突を防ぐのに役立ちます。
2.Moving Motivators(動機づけカードゲーム)
このゲームでは、チームメンバーが自分自身の仕事やプロジェクトに対する動機づけに影響を与える要因を評価し、共有します。
【動機づけの要因例】
- 仕事をやり遂げることへの個人的な満足感
- 新しいスキルや知識を習得することへの興味
- チームメンバーとの協力やチームの成功に対する貢献感
- 組織のビジョンや価値観に共感することへの動機づけ
これらの要因は、個人のモチベーションに影響を与えます。チームメンバーが自分自身の動機づけ要因を評価し、それを共有することで、チーム全体が互いの動機づけを理解し、タスクやプロジェクトの割り当てをより適切に調整できるようになります。
3.Kudo Box(クードゥボックス)
チームメンバーは同僚に感謝のカード(Kudo)を送ることができます。このゲームは、ポジティブなフィードバックと称賛を促進し、チームビルディングとモチベーション向上に貢献します。
4.Personal Maps(パーソナルマップ)
チームメンバーが自己紹介や相互理解を深めるために、自分自身に関する情報を視覚的な形式で表現し、他のメンバーと共有します。これにより、相互理解が深まり、コミュニケーションの質が向上します。
【例えば…】
- 自分の経歴や専門知識
- 個人的な興味や趣味
- 仕事での役割や貢献
- コミュニケーションスタイル
- コラボレーションの好み
※コミュニケーションスタイル とは
チームメンバーがコミュニケーションを取る際の好みやスタイルを指します。例えば、誰かが情報をビジュアル的に示すことを好み、他の人は口頭での会話を好むかもしれません。また、誰かが詳細な情報を必要とし、他の人は要約された情報を好むかもしれません。このような好みは、効果的なコミュニケーションを実現するために理解されるべきです。
文部科学省採用
「伝え方コミュニケーション検定」https://child.j-ban.com ※コラボレーションの好み とは
チームメンバーが他のメンバーとの協力やチーム作業の方法についての好みを指します。例えば、誰かがチーム内でのアイデア共有とディスカッションを好むかもしれませんが、他の人は独自の作業に集中することを好むかもしれません。また、協力プロジェクトの進行方法についても個人ごとに異なる好みがあります。5.Value Stories(価値ストーリー)
チームメンバーは組織の価値観に関連するストーリーを共有します。これは、組織の文化や共通の価値観を強調し、チームの一体感を高めます。
<具体例>
- 組織内で実践されている価値観に従って成功したエピソード
- 組織の文化や価値観を具体的な実例を交えて説明するストーリー
- 組織の価値観に合致しない行動が問題を引き起こしたエピソード
これらのストーリーは、組織のメンバーに対して、共通の価値観を理解し、それを実践するためのインスピレーションやガイダンスを提供します。組織の文化や理念を伝え、共有することにより、協力と共感が促進され、一体感が高まります。
6.Change Management Game(変更管理ゲーム)
このゲームは、変更管理に関する理解を深め、組織変更に対処するためのスキルを向上させます。
チームメンバーは変更への対応策を共有し、協力して変更を受け入れます。下記のゲーム例は、変更提案の作成、リスク評価、実行、問題解決など、実際の変更管理プロセスの要素がシミュレートされています。参加者はリアルな状況を模倣しながら、変更管理に関するスキルを向上させることができます。
<ゲーム例: “プロジェクト変更シミュレーション”>
概要
このゲームは、プロジェクトに変更を導入するプロセスを模倣します。参加者は異なる役割を担当し、プロジェクトの変更提案と実行を体験します。手順
役割分担: 参加者はプロジェクトマネージャー、エンジニア、ステークホルダーなど、異なる役割を割り当てられます。①変更提案
各参加者は、プロジェクトに対する変更提案を考え、プレゼンテーションの形で他の参加者に提案します。
提案は、プロジェクトのスケジュール、予算、リスクにどのように影響するかを含む必要があります。
②リスク評価
プロジェクトマネージャーとステークホルダーは、各提案のリスクを評価し、どの提案を受け入れるか、どの提案を修正するかを議論します。
③変更の実行
承認された変更提案は、実際にプロジェクトに導入されます。エンジニアは変更を実装し、ステークホルダーは変更の進行を監視します。
④問題と課題
プロジェクトの進行中に予期せぬ問題や課題が発生します。参加者はこれらの問題に対処し、解決策を見つけます。
⑤振り返りと学習
ゲームの終了後、参加者はプロジェクト変更プロセス全体を振り返り、変更提案の成功要因や改善点について議論します。
まとめ
組織の運営やチームの効果的なマネジメントは、絶えず進化しています。特に現代のビジネス環境では、変化が激しく、柔軟性と適応性が求められています。そこで登場するのが「マネジメント3.0」です。これは従来のマネジメントアプローチを超え、新しいリーダーシップの理念とプラクティスを提供するものです。
マネジメント3.0は、組織やチームのリーダーシップに革命をもたらす可能性があります。このアプローチを受け入れ、挑戦に立ち向かうことで、現代のビジネス環境での成功を掴むことができるでしょう。新しい時代のリーダーとしての役割を果たし、持続的な成果を目指しましょう。